ジャイアンツの原監督が”育成と発掘“と掲げて、若手の育成に舵を切りました。かつては他チームの4番やエースを乱獲すると批判され、他チームのファンから揶揄されることが多かったのですが、最近はFA獲得も機能しなくなっています。
FA獲得によるジャイアンツの歴史
ジャイアンツは12球団で断トツの28人を、FAで獲得してきました。ソフトバンクが2番目に多く14人ですので、圧倒的に多くのFA選手を獲得してきています。投手14人、捕手2人、内野手8人、外野手4人という内訳です。2012年までは他チームの4番とエースを、毎年のように獲得していますが、2013年以降はエースと4番を獲得することができなくなっています。
加入年度 | 選手名 | ポジション | 前所属 | 契約年数 | 安打数・勝利数 |
1994年 | 落合博満 | 内野手 | 中日 | 1年契約 | 352 |
1995年 | 川口和久 | 投手 | 広島 | 3年契約 | 8 |
1995年 | 広澤克実 | 内野手 | ヤクルト | 3年契約 | 296 |
1996年 | 河野博文 | 投手 | 日本ハム | 2年契約 | 10 |
1997年 | 清原和博 | 内野手 | 西武 | 3年契約 | 720 |
2000年 | 工藤公康 | 投手 | 福岡ダイエー | 1年契約 | 53 |
2000年 | 江藤智 | 内野手 | 広島 | 4年契約 | 465 |
2002年 | 前田幸長 | 投手 | 中日 | 4年契約 | 11 |
2006年 | 野口茂樹 | 投手 | 中日 | 2年契約 | 1 |
2006年 | 豊田清 | 投手 | 西武 | 2年契約 | 9 |
2007年 | 小笠原道大 | 内野手 | 北海道日本ハム | 4年契約 | 701 |
2007年 | 門倉健 | 投手 | 横浜 | 2年契約 | 1 |
2010年 | 藤井秀悟 | 投手 | 北海道日本ハム | 1年契約 | 7 |
2012年 | 村田修一 | 内野手 | 横浜 | 2年契約 | 765 |
2012年 | 杉内俊哉 | 投手 | 福岡ソフトバンク | 4年契約 | 39 |
2014年 | 大竹寛 | 投手 | 広島 | 3年契約 | 28 |
2014年 | 片岡治大 | 内野手 | 埼玉西武 | 2年契約 | 211 |
2015年 | 相川亮二 | 捕手 | 東京ヤクルト | 1年契約 | 47 |
2015年 | 金城龍彦 | 外野手 | 横浜DeNA | 1年契約 | 21 |
2016年 | 脇谷亮太 | 内野手 | 埼玉西武 | 1年契約 | 33 |
2017年 | 森福允彦 | 投手 | 福岡ソフトバンク | 2年契約 | 1 |
2017年 | 山口俊 | 投手 | 横浜DeNA | 3年契約 | 25 |
2017年 | 陽岱鋼 | 外野手 | 北海道日本ハム | 5年契約 | 222 |
2018年 | 野上亮磨 | 投手 | 埼玉西武 | 3年契約 | 5 |
2019年 | 炭谷銀仁朗 | 捕手 | 埼玉西武 | 3年契約 | 60 |
2019年 | 丸佳浩 | 外野手 | 広島 | 5年契約 | 443 |
2021年 | 梶谷隆幸 | 外野手 | 横浜DeNA | 4年契約 | 64 |
2021年 | 井納翔一 | 投手 | 横浜DeNA | 2年契約 | 0 |
近年のFAの動向
2021年のFA有資格者は97人いましたが、宣言したのは3人のみ。移籍したのは中日の又吉克樹投手の1名のみです。2020年も7人が宣言しましたが、移籍したのはDeNAからジャイアンツへ移籍した、梶谷隆幸選手と井納翔一投手と、ロッテからMLBのレッドソックスに移籍した澤村拓一投手だけです。日米の制度の違いが大きく、条件によって全員がFAとなるMLBと宣言をしなければFAにならない日本との比較は単純にはできませんが、制度としてあまり機能しているとはいえません。
MLBへの移籍
かつては各チームの4番やエースは、高年俸や日本シリーズの優勝を目指して、他チームへ移籍することが多かったと思います。しかし最近は日本一になる夢の代わりに、MLBでの活躍を夢に見る選手が多くなりました。大谷翔平選手のように日本一を目指すよりも、MLBでの成功を入団時に夢に掲げる選手が出てきています。また日米の年俸の差も激しくなり、高年俸を目指すのであれば、巨人よりもMLBのほうが魅力的になっています。
また日本のチームの中でも待遇差が小さくなってきていることも、FA移籍が少なくなっている一つの原因ではないでしょうか。ソフトバンクや楽天の参入によってリーグが活性化していることは事実です。4番やエースのように圧倒的力がある選手は、MLBへの移籍を目指しますので、どうしても国内FA移籍は数が少なくなり、選手も小粒になると言ってもいいでしょう。
FAでの選手強化の限界
MLBの存在や他チームの待遇の改善によって、FA市場は導入時よりも不活性化されています。毎年のように他チームのエースや4番を補強することは、難しくなりました。また補強した選手が必ずしも活躍できるわけではなく、選手がダブついてしまうこともジャイアンツにおいては散見されました。この様な状況下では優勝を狙う戦力を常に保持することが難しくなり、ジャイアンツの強化戦略は大きく舵を切らざるを得なくなりました。その現れが”育成と発掘“という方針にあると考えられます。
育成は3軍制とコーチ陣の強化
ソフトバンクに遅れを取りましたが、ジャイアンツも3軍制を敷いています。また練習環境もソフトバンクに大きく遅れを取っていましたが、追いつくべく投資をしているようです。ジャイアンツ球場と選手寮の一体化を計画しており、新しい選手寮の建設とクラブハウスの改修を発表しています。3軍制によって選手数が増えれば、当然ハードの強化が必要となるのは当たり前のことですが、漸くジャイアンツも力を入れだしたと言えるでしょう。
発掘はスカウト網の強化 OBスカウト導入
ドラフトで失敗が続いたことも有り、また3軍の選手の質を確保できなくなり、スカウトの強化は大きな課題として浮き彫りになりました。原監督の問題意識はすぐに対策として現れました。スカウト陣は水野雄仁スカウト部長の体制に一新され、2020年6月に国内に新たにOBスカウトが配置されました。2021年6月には米国OBスカウトも、設置されています。今年コロナ禍の規制により来日が遅れた外国人選手がコンディションを整えることができたのも、米国スカウトが米国でのミニキャンプ実施に貢献したことと思います。また、A.ウォーカー選手の活躍は、ジャイアンツの外国人野手としては久々のヒットであり、ここでもOBスカウトが機能したものと言えるのではないでしょうか。
原監督は現場ではなくフロント入が望まれる
原監督の後任は育ちつつあります。高橋由伸前監督や阿部慎之助コーチは、既に準備万端と言っても良いのではないでしょうか。原監督も監督業にしがみつくような事は予想されず、体制さえ整えば今年いっぱいで禅譲することは十分にありえるのではないでしょうか。しかしGMとして改革してきた球団の体制は、まだ十分では有りません。ファンが望む方向へ、進みだしてはいるものの、持続させることは非常に大切です。既に監督としては十分な実績を挙げた原監督ですので、次はフロントとして球団を改革していただきたいと思います。西武とソフトバンクを作り上げた根本陸夫さんを超えてもらうことができれば、本当の意味での球団強化が可能となるのではないかと思います。