伝説のクォーターバックが、同じチームで引退できない理由

44歳でG.O.A.T.とまで称賛された、トム・ブレイディが遂に引退の意思を固めたと報道されている。スーパーボウルを7回制覇したブレイディは、最後の2年間をペイトリオッツではなく、バッカニアーズで過ごしている。日本人の感覚であれば、これほどの選手を何故チームが手放してしまうのか、不思議な感覚がある。引退まで入団したチームに所属することが美徳とされることが多い日本では、大切なベテランを放出すれば批判が大きいが、アメリカでは普通の事となっている。原因はNFLの制度と選手側にも原因があるようだ。

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NFLのサラリーキャップ

NFLには給料の総額を制限する制度がある。2021年のサラリーキャップは1億8,250万ドル(約197億8,000万円)に制限されており、各チームこの制限の中でチーム作りをしなければならなかった。

2021年のバッカニアーズの場合は、ブレイディに約2027万ドルを支払っており、チームのサラリー総額の11%をブレイディに投下していることとなる。1チームのロースターには53名が登録できるが、一人で1割以上を投下するとなれば、チームの不沈に直結する問題だ。バッカニアーズには控えのQBが一人いるが、その選手のサラリーは125.8万ドルだ。

スパニエル
スパニエル

参考までにパッカーズのアーロン・ロジャースの20201年のサラリーは、2703万ドルでした。

従ってチームはエースQBを2人抱えることは出来ず、控えのQBはサラリーが極端に低くなる。そうなると実力がある控えQBは、他チームにFAで移籍していく事になる。ここで問題となるのが、エースQBの年齢だ。44歳でなおトップに君臨するブレイディは、極めて稀なケースで、通常の選手であれば、40歳が近くなれば、パフォーマンスが落ちる。若い控えQBに才能があれば、チームのHCはベテランを放出し、若いQBをエースに据えたくなるのである。

QBのドラフトの難しさ

カレッジから毎年のようにスター候補のQBが、ドラフト1巡で入団してくる。未だ何の実績も上げていないルーキーを、高額サラリーで入団させる。そして高待遇で入団したルーキーQBは結構な確率で、エースQBに成れずに消えていくのだ。

NFLのドラフトは32チームのウェイバーで指名をするので、目玉と言われるQBを指名できるチームは年に2~3チームだ。弱いチームほどドラフトが高順位になりやすいが、単純に考えれば10年に一度のチャンスとも言える。

だから、エリートQBを指名できるチャンスを逃すことは許されない。特にエースQBが定まらないチームやエースQBがベテランに差し掛かっているチームは、常にチャンスを伺っているのだ。

過去のレジェンドQBたち

ジョー・モンタナの場合

ブレイディが現れる前のG.O.A.T.は誰かと言えば、ジョー・モンタナだろう。スーパーボウルを4回制覇し、この人より上のQBはもう現れないのではないかと、当時は思っていた。モンタナも14年間49ersで過ごした後、最後の2年間はチーフスで現役生活を続けた。当時は熱狂的なファンから放出について批判もあったと記憶しているが、チームは若手QBのスティーブ・ヤングに未来を託した。その後ヤングは1994年に、スーパーボウルを制覇したので、判断は全くの間違いとは成らなかった。モンタナの場合は自らの故障と年齢が原因で、エースQBの座を奪われてしまったと言っていいだろう。

ブレット・ファーブの場合

熱狂的なファンに支えられたブレット・ファーブも、16年間パッカーズに所属した後に、ジェッツで1年間、バイキングスで2年間現役を続けた。ファーブの場合は自ら引退を示唆するなどして、チームからの信頼を失ったことが大きいかもしれない。後にファーブからエースQBの座を奪うアーロン・ロジャースは、ファーブがドラフト直前まで現役続行を表明せず、直後の2005年のドラフトで指名されている。

ファーブは2007年に現役引退を発表するが、開幕直前に引退を撤回した。チームは既にアーロン・ロジャースをエースQBとしてチーム作りをしていたので、ファーブの戻る場所はなく、解雇かトレードをチームに要求している。チームはファーブにパッカーズの一員のまま引退するよう説得したようだが、その後ジェッツへトレードしている。

ファーブのように引退間近になると、チームはその後釜を養成しなければならず、エースQBを新たに育成するためには時間を要するため、その去就が定まらない場合はチームが混乱する。

現在ファーブからエースQBの座を奪ったアーロン・ロジャースが、毎年のようにその去就が注目されているのは、制度的に同じ問題が繰り返される要因があるということの証左であろう。

トム・ブレイディの場合

ブレイディは故障もなく、引退を示唆したり、チームにトレードを要求したりという事も無くペイトリオッツを去っている。HCベリチックとの無敵のコンビは称賛に値するが、袂を分けた昨年にバッカニアーズでスーパーボウルを制覇したことは、ブレイディの価値をまた上げたのではないだろうか。

ポメ
ポメ

この事はブレイディだけではなく、エリートQBの絶対的価値も引き上げたのではないかと個人的には思っています。各チームのエースQBが契約やチームの強化方針に不満をぶつけることが多くなった気がします。

いずれにしろ、ブレイディの功績は大きく、今後の活動に注目が集まりますね。

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