ジャイアンツの弱体化が止まりません。野球は変わってきているのに、首脳陣の中についていけていない人材がいるようで、古い野球と新しい野球が混在してしまっています。若い選手たちは古い野球に戸惑い、古い首脳陣たちは新しい考え方を受け入れられないのかもしれません。

ジャイアンツの現状
戦力的に大きく減退したとはいえず、外国人やFAでの補強も他球団に比べて恵まれた環境にあるにもかかわらず、成績は下降線をたどっています。
3軍制を早くから導入し、毎年大量の育成選手を獲得しているにもかかわらず、新戦力の台頭が他球団に比べて少ないことは現実です。育成ドラフトは2005年から始まっており、1回目こそ山口哲也投手1人の指名でしたが、その後は大量指名を続けており、2020年は12名、2021年は10名の指名です。累計では95名を育成で指名していますが、ある程度1軍で実績を残せたのは、下表の5人だけとかなり寂しい状況です。
指名年度 | 氏名 | 主な実績 | 備考 |
2005年 | 山口哲也 | 642試合 | |
2006年 | 松本哲也 | 336安打 | |
2014年 | 田中貴也 | 60試合 | 巨人では2試合 |
2015年 | 増田大輝 | 57盗塁 | |
2016年 | 松原聖弥 | 199安打 |
”育成の巨人”を標榜した時期があったにもかかわらず、これだけ結果が出ていないことに、球団はどういった評価をしているのでしょうか。
育成ドラフトだけではなく、過去5年のドラフトで1軍に定着している野手は、2017年の大城卓三捕手だけです。大城捕手は大卒・社会人経験者なので、高卒野手に限ると、1軍に定着しているのは、2014年の岡本和真選手まで遡らなければなりません。その前となると2008年大田泰示選手とキャリアが終盤になってきている選手です。
ここまで育成ができていないことを、どう分析をしているのか非常に気になります。
首脳陣がつくるベンチの雰囲気
よく巨人のベンチは暗いといわれてますが、別に暗い選手が揃っているわけではないでしょう。ある程度の人数がいる組織であれば、性格の偏りが出てくることは無いはずです。解説者は明るいチームリーダーの不在などを指摘しますが、チームリーダーを養成するのも首脳陣の務めです。現状のベンチの雰囲気を醸成しているのは、間違いなく首脳陣です。組織は人間の集まりで、それは野球チームも一般の会社組織も同じです。責任者によって組織の雰囲気は、確実に変わります。厳しい責任者であっても、明るい組織を作ることができるのは、組織に所属したことがある人であれば、誰でも理解できることでしょう。
コーチの育成が急務
一般組織で50名程度であれば、最上位の者の最大の責務は中間管理職の育成です。ベストの結果が、後任者への禅譲でしょう。ジャイアンツでいえば原監督が後任を育成することが最大の責務ですが、答えが今は出ていません。4年前に就任した時には、後任者の育成にも言及していたと記憶していますが、現状はますます混迷しています。一般社会では3年結果が出なければ、大概の管理職は失格の烙印を押されて別の部署に異動していきます。そこが野球界とは少し違うようです。
中間管理職も組織を暗くする原因を作ります。特に裏表があったり、上司に弱く部下にきつい中間管理職がいれば、それだけで組織は暗くなります。実力も部下に対する思いやりも無い中間管理職が、上位の管理職に取り入ってしまえば、組織は終わります。上位の管理職の目が行き届かず、中間管理職を正しく評価できなければ、末端の人たちが暗くなるのは良くあることです。
個人的見解ですが、スポーツ選手には明るい性格の人が多いと思います。そのスポーツ界で”ベンチが暗い”となれば、何かしら大きな原因があるはずです。球団フロントは、正しく調査、分析ができているのでしょうか。ジャイアンツのベンチが暗いのは、今年始まった話ではありません。日本シリーズでソフトバンクに4連敗した時から、ずっと続いているように思えてなりません。

年齢差は永遠の課題
選手と首脳陣の世代間格差は、大きくなっています。スポーツ界や学校教育の環境はここ10年で大きく変わっています。一般社会ではパワハラ・セクハラなどの問題が、スポーツ界などよりも早く顕在化しています。むしろスポーツ界はパワハラなどについての対策が、遅れているのではないでしょうか。暴力や体罰は学校や一般社会では早くから禁止されましたが、野球界のOB等の話を聞いていると、わりと最近のOBまで暴力や体罰を経験しているようです。このあたりが、最近の選手と首脳陣とのコミュニケーションを難しくしていることは、間違いないでしょう。”我々が現役のころは”と嘆く解説者が数多くいますが、首脳陣が思っているようであれば、その時点で若い選手には受け入れられないでしょう。
原辰徳 | 監督 | 1958/7/22 | 64 |
元木大介 | ヘッドコーチ | 1971/12/30 | 50 |
阿部慎之助 | ディフェンスコーチ | 1979/3/20 | 43 |
金 杞泰 | 打撃コーチ | 1969/5/23 | 53 |
村田修一 | 打撃兼内野守備コーチ | 1980/12/28 | 41 |
桑田真澄 | 投手チーフコーチ | 1968/4/1 | 54 |
山口哲也 | 投手コーチ | 1983/11/11 | 38 |
平均年齢 | 49 |
高津臣吾 | 監督 | 1968/11/25 | 53 |
松元ユウイチ | 作戦コーチ | 1980/12/18 | 41 |
伊藤智仁 | 投手コーチ | 1970/10/30 | 51 |
石井弘寿 | 投手コーチ | 1977/9/14 | 45 |
杉村繁 | 打撃コーチ | 1957/7/31 | 65 |
大松尚逸 | 打撃コーチ | 1962/6/16 | 60 |
平均年齢 | 52.5 |
三浦 大輔 | 監督 | 1973/12/25 | 48 |
青山 道雄 | ヘッドコーチ | 1959/12/17 | 62 |
石井 琢朗 | 野手総合コーチ | 1970/8/25 | 52 |
鈴木 尚典 | 打撃コーチ | 1972/4/10 | 50 |
齋藤 隆 | チーフ投手コーチ | 1970/2/14 | 52 |
木塚 敦志 | 投手コーチ | 1977/7/19 | 45 |
平均年齢 | 51.5 |
矢野燿大 | 監督 | 1968/12/6 | 53 |
井上一樹 | ヘッドコーチ | 1971/7/25 | 51 |
福原忍 | 投手コーチ | 1976/12/28 | 45 |
金村曉 | 投手コーチ | 1976/4/19 | 46 |
北川博敏 | 打撃コーチ | 1972/5/27 | 50 |
新井良太 | 打撃コーチ | 1983/8/16 | 39 |
平均年齢 | 47.3 |
佐々岡 真司 | 一軍監督 | 1967/8/26 | 55 |
河田 雄祐 | ヘッドコーチ兼外野守備走塁コーチ | 1967/12/22 | 54 |
東出 輝裕 | 野手総合コーチ | 1980/8/21 | 42 |
朝山 東洋 | 打撃コーチ | 1976/7/29 | 46 |
迎 祐一郎 | 打撃コーチ | 1981/12/22 | 40 |
高橋 建 | 投手コーチ | 1969/4/16 | 53 |
横山 竜士 | 投手コーチ | 1976/6/11 | 46 |
平均年齢 | 48 |
立浪和義 | 監督 | 1969/8/19 | 53 |
落合英二 | ヘッド兼投手コーチ | 1969/7/25 | 53 |
大塚晶文 | 投手コーチ | 1972/1/13 | 50 |
西山秀二 | バッテリーコーチ | 1967/7/7 | 55 |
波留敏夫 | 打撃コーチ | 1970/5/25 | 52 |
森野将彦 | 打撃コーチ | 1978/7/28 | 44 |
51.2 |
各チームの首脳陣の年齢を、比較してみました。それなりに各チーム若返りが、図られているようです。しかしジャイアンツの原監督だけは突出しています。これだけの実績を残した監督ですので、当たり前のことかもしれません。
しかし64歳といえば、会社組織なら会長職に近い年齢です。すでに現場を離れなければならない年齢です。一般社会で会長が新入社員に直接教育を施し、命令するなんてことは、ある程度の規模の組織ではあり得ません。一般社会でも野球界でも年齢差によるコミュニケーションの難しさは、大きな違いがあるはずがありません。原監督個人の監督としての能力は、間違いありませんが、年齢による世代間格差もまた間違いなく存在するのではないでしょうか。
GM職を原監督に
現場に口出しをせず、組織作りをする仕事を原監督にはしてもらいたいと思います。いつまでも現場の監督を続けることは原監督の能力に関係なく、世代間の格差によって難しくなってきます。それはどんなに優秀な管理職でも、同じではないでしょうか。一般社会の変化のスピードは加速していきます。野球界は少し出遅れている感がありますが、今の新人選手は大きく変化した後の教育環境で育ってきています。今の選手と昔の選手がお互いを理解することは、残念ながらかなり難しいといっていいでしょう。現場の監督と選手は、かなり密接に関係しており、コミュニケーションに問題があれば、結果に大きく影響するでしょう。
コーチも選手を理解しなければならない
コーチもすぐに自分の現役時代の基準を持ち出しては、いけないと思います。球数制限や練習方法など、今の若い選手は新しい概念で育ってきています。プロに入っていきなり前時代の概念を持ち出されても、心からは理解できません。特に今のプロ野球チームは、チームによってそのあたりの理解度が違うようです。新しい時代に取り残されて、古い考え方を若い選手に押し付けるようでは、今の選手は伸びないのではないでしょうか。
佐々木朗希投手の例を出すまでもなく、投手に連投などを押し付けては理解されません。今年の仙台育英高校の投手陣を見れば、今のジャイアンツの投手起用はますます若い投手たちに理解されなくなるでしょう。地方予選の決勝を回避したり、連続完全試合を諦めることができるマインドを、今のジャイアンツのコーチ陣は心から理解できるのでしょうか。
メディアを見ていると、「俺たちの時代は、間違っていた。」と、正面から向き合えている解説者は少ないと思います。果たしてチームの現場ではどうでしょうか。
無理な完投や、過度な連投はどんどん受け入れられなくなっていくと思います。時代が変わったからということはできても、自分たちの時代を否定できない指導者や管理職は一般社会でも少なくありません。

ジャイアンツの現場は、今どうなんでしょうか?