カープとの天王山第2戦。ヒーローインタビューは同点打の浅野翔吾選手と決勝3ランの岡本和真選手で、東京ドームは大盛りあがりでした。それはそれでとても興奮したのでしたが、私個人的に一番盛り上がったのは、8回に羽月隆太郎選手の盗塁を刺した岸田捕手のスローイングでした。更に言えば9回投球が抜けまくっていたクローザーの大勢投手を引っ張ったリードにも、興奮してしまいました。
短く持つバットで好調維持
以前から岸田捕手はバットを極端に短く持ち、外角の球も踏み込んで捌く打撃が持ち味でした。今年多くの打者がバットの芯に当てることができずに成績を落としているのとは対象的に、確実に芯に当てて、外野の間を抜く打撃は飛ばない球にマッチしたのかもしれません。昨シーズンも捕手らしい読みから狙い玉を仕留める打撃が見られましたが、今年は更に確率が上がったようです。シーズン序盤からコンスタントに打ち続けており、捕手としては十分水準以上の打撃を続けていると思います。高校時代は岡本和真選手と高校日本選抜のクリンナップを形成した実績がありながら、バットを短く持って単打狙いに徹する様子には、本当の意味での見てくれを気にしない必死さが現れています。
速いスローイングと正確なコントロール
昨晩は2つ盗塁を刺しましたが、どちらも素早いスローイングで、抜群のコントロールでした。8回のスローイングは低目の変化球を受けた難しい体勢から投げたもので、アウトになった瞬間は、岡本選手の3ランの時と同様の声がテレビの前で出てしまったほどです。
岸田捕手は地肩も強いと思いますが、全盛期の小林誠司捕手や、ファームで頑張っている山瀬慎之助捕手ほどではありません。しかしそのことが地肩の強さだけに頼らない、素早いフットワークによるスローイングと、コントロールを身に着けた遠因になっているのではないかと推測します。今後加齢とともに地肩の強さは失われていくと思いますが、谷繁元信さんに代表されるような息の長い捕手に、なっていく可能性があるのでは無いかと思います。
リードで大勢投手の乱調を防いだ
この日の大勢投手はストレートが明らかに抜けて、コントロールができない状況でした。受けている岸田捕手も当然異変に気がついたと思います。そこで岸田捕手は外角に構えるのをやめて、真中付近にミットを構えるようになりました。これは以前ジャイアンツにFAで移籍してきた炭谷銀仁朗捕手が使っていたリードの一つだったと思います。球威があるにも関わらずコーナーを狙う必要がないときは、勇気を持って真ん中に構える。特にこの日のように3点差があるときには、有効な手法だったと思います。
もう一つこの日の岸田捕手のリードで感じたのは、スライダーの使い方でした。ストレートが抜けていた大勢投手は恐らく気合が入りすぎて、体が突っ込んでいたのだと推測します。そこで岸田捕手はそれを矯正するように、外角にスライダーを投げさせました。カーブやスライダー系は体を開くと投げられませんので、突っ込むときにはそれを防ぐことができます。投げさせた球は外角から入るいわゆるバックドアとなり、効果的な配球にもなりました。スライダーは引っ掛けて暴投にもなる可能性があり、引っ掛ける可能性が少ないバックドアを投げることは極めて合理的だったと思います。
リーダシップ
岸田捕手は明るい性格で一時は円陣番長などと言われていました。その岸田捕手も、もう若手という年齢ではなく、チームの中軸となるべき年齢になっています。キャプテンを務めている岡本選手とは同級生で、今年は主戦捕手として実績を積んでおり、チーム内での立ち位置も大きく変わっていると思います。
現在の阿部監督も捕手出身の監督として力を発揮していますし、現在のジャイアンツのベンチには捕手出身の首脳陣が数多く入っています。当然岸田捕手も将来の幹部として有望であり、持ち前の明るい性格から、キャプテンを岡本選手から引き継ぐ可能性さえも有るのではないかと思います。
そんな将来性さえも感じさせてくれる岸田捕手は、これから優勝争いの中でマスクを被り、貴重な経験を積んでいくことになります。また3位以内に入ることはほぼ確実に見込まれている状況の中で、ポストシーズンでマスクをかぶることは、さらに重要な経験となり、来シーズン以降にも活かされることになるでしょう。
強いチームには必ず名捕手がいるものです。長らくレギュラー捕手争いが続いてきましたが、長期の回答としての候補に岸田捕手が名乗りを上げているのが、今現在の岸田捕手が置かれている状況ではないでしょうか?
いずれにしろ残りのシーズンで岸田捕手の貢献が必要であることは間違いなく、このカープとの1戦で岸田捕手が見せた能力は、間違いなくリーグを代表するものだと思います。
今シーズンはもとより、来シーズンのスターティングメンバーが岸田捕手、モンテス内野手の台頭、フェルナンデス選手の復帰、浅野翔吾選手の覚醒によって、非常に楽しみなものになってきました。